リスクマネジメントと資金マネジメントの考え方

ファイナンス

証券会社に勤務していた頃、リスク管理システムの構築を担当したことがありました。リスクマネジメントとは、簡単に言えば最大予想損失額の算出です。VaR(Value at Risk)という記号で表されることが多いですね。

VaRを算出するには面倒な計算が必要なので、個人で必要とは思えませんが、リスク管理手法のエッセンスは利用できるものと思います。

リスクマネジメント(リスク管理)とは

リスクマネジメント(以下リスク管理)というと、金融資産のリスク管理よりも、むしろISO9001などで定義される成果物のリスク管理をイメージする方の方が多いのではないでしょうか。

私自身、以前、ISO9001の認証取得に関わったことがあります。「昔取った杵柄」とも言えるので書いてみたい気はしますが、ここで述べるリスク管理は、金融資産のリスク管理ですので、いったんISOの方はおいておきます。

ただ、どちらもリスクを管理するという目的は同じなので、どちらにも通ずるものはあります。

リスク管理とは、今後発生しうるリスクを認識した上で、そのリスクが顕在化した場合には、適切な対処を行うことを指します。

リスクとは何かというと、今後発生する可能性のある、自身にとって悪いことはすべてリスクです。

例えば相場の暴落といったものもそうですし、いつも使っている取引システムが停止する、利用している会社が倒産するといったこともそうです。さらに言えば、災害や戦争などもリスクと言えます。

ただし、金融資産のリスク管理というと、通常は最大損失額(Value at Risk)の管理を指します。

 

VaR(Value at Risk)

最大損失額(Value at Risk)は、その名の通り、一定期間内での最大損失額を指します。例えば1日後、1カ月後、1年後など特定の期間内で、いくらの損失が発生しうるかを計算します。

通常、金融機関では、複数の証券や債権、金融派生商品契約(SWAPやOTC)、あるは外貨を含む現預金を保有している為、これらの最大損失額を計算することは容易ではありません。

この為、VaRの計算には複雑ないくつかの手法(デルタ法、モンテカルロ法、ヒストリカル・シミュレーション法)などによって算出します。

それぞれの方式は考え方が異なり、統計的な手法によって価格変異の偏差を求める方式(デルタ法)や、過去の大きな変動のあった時点の値動きを参考とした損失計算(ヒストリカル・シミュレーション法)などがあります。

ちなみに価格変動リスクにさられている金融資産のことをエクスポージャと言います。普通に生活をしている場合には、あまり使いどころのない言葉ですが、もしもリスク管理関連の資料を読む場合には、よく出てくる言葉なので、記憶の片隅にとどめておいても良いかもしれません。

 

個人の金融資産に当てはめて考えると

計算方法はともかくとして、個人であっても、今保有している金融資産が有事の際には、どの程度の損失を出しうるかを把握しておくことは重要です。

個人では、普通、それほど複雑な金融資産を保有している分けではないと思います。この為、最大損失計算もそれほど複雑なことを考える必要はありません。

例えば株であれば、長期間(例えば10年とか20年とか)の過去の最安値を使う、為替であっても同様に、長期間での最安値を使って試算することで、比較的容易に最大損失額を算出することができます。

少し、注意するべきことがあるとすれば、マーケットにとって大きな事件があった場合、一律にすべての金融資産が値下がりする分けではないという点でしょうか。

例えば、将来の景気に深刻な影響をもたらすような事案が発生した場合には、株価は値下がりすると思われますが、債券はむしろ値上がりする可能性が高いです。(将来の金利の低下を織り込む為)

この為、もしもある程度の種類の金融資産を保有している場合には、すべての金融資産の最安値をばらばらに拾うよりも、もっとも損失が大きくなる(なりそうな)時点の価格で値洗いをした方が精度は上がるかもしれません。

 

最大損失額計算の重要性

株の取引きの手法で、「二階建て」と呼ばれる取引方法があります。

例えば、現物としてA社の株を保有していて、この株を担保に信用取引でA社株を買い増すような取引を、二階建て取引と呼びます。

もしもA社株が上げれば大きな利益を出しますが、下がった場合には大きな損失を出すだけではなく、場合によっては借金が残ります。(信用取引で発生した追証を現物株式を売却しても払いきれないなど)

実際に同様の取引で大きな損失を出す個人は多いです。

なぜこのようなことが起こるかと言えば、損失が発生した場合のことを十分に予見して取引を行えていない為と思われます。

マーケットは時に感覚以上に大きく動くものです。日頃からどの程度の動きかあり得るかを常に考えて取引を行う為にも、最大損失額の計算は行っておくべきものと思います。

 

最後に

過去に業務などで携わった経験がない方には、あまりリスク管理という概念に触れたことはないという方が多いのではないでしょうか。

マーケットで長期に渡って利益を積み上げようと思えば、リスク管理は重要です。これを機に、一度、ご自身の金融資産のリスク管理を行ってみてはいかがでしょうか。

コメント