おすすめ本・私的評論・レビュー~女王の百年密室~

本については、長く私自身の印象に残っているものだけレビュー(?)を書きます。この為、評価は付けません。(全部星5つです)

もしも私が取り上げた本の内、あなたも気に入っている本が多くあれば、是非他の本も読んでみてください。似た感性の方であれば、他の本もきっと気に入っていただけるものと思います。

森博嗣 百年シリーズ


作者:森博嗣
初版出版年:2000年
出版社:幻冬舎→新潮社→講談社

あらすじ

西暦2113年。サエバ・ミチルとウォーカロン(アンドロイド)のロイディは、森の中にたたずむ宮殿にたどり着く。

そこは外界から隔絶された小都市・ルナティックシティ。美しい女王の治める理想郷でやがて殺人事件が発生するが・・・

私的評論・レビュー

初めてこの本を読んでから20年近い時間が流れたらしい。当時、森博嗣の本は良く読んだが、その中でも特に印象に残っている一冊だ。

20年を経て、尚、印象に残っているのだから良い本なのだろうと思う。

カテゴリで言えば、SFとミステリの中間くらいに位置付けられる物語だ。つまり、舞台は未来で殺人事件が起こる。自然言語を理解して、自律的に行動するアンドロイドも登場する。

乱暴な言い方をすれば、SFでもミステリでもどちらのカテゴリでも良い。作者本人も、おそらくカテゴリ分けなどは気にしていないに違いない。

でも、私自身の感覚であえてカテゴリ分けをさせてもらうとすれば、ファンタジーこそ相応しいのではないかと思う。

舞台は未来の世界。発生する事件は殺人事件。

設定自体は一般的ではないにしても、それほどには奇想天外なものではない。古くはアシモフなども未来世界での殺人事件を扱っているし、フィリップ・K・ディックのマイノリティリポートでも、未来の殺人事件を扱っている。

ただ、未来を舞台とした殺人事件は、現代を舞台とするミステリとは異なり、それほどトリックの緻密性や意外性を要求しない。

むしろ、殺人事件は主題から少しはずれたスパイスとして扱われることが多い。

本作もその例に漏れず、殺人事件の解決が物語のテーマではない。だから、物語の中には名探偵も出てこない。

作者が書きたかったのも、きっとミステリではないのだと思う。

ただ、ミステリ作家としての森博嗣が、自然に殺人事件を物語の中に織り込んだのではないだろうか。

この本の描く未来世界では、エネルギー問題が解決している。だから世界から争いは消えて、人々は好きな世界に引きこもることができる。

物語の舞台となった町も、余剰エネルギーを原資としてひっそりと引きこもることができるようになった。

20年前に、この記述を読んだ時に、なるほどと感じた。

エネルギー消費量は文明度の尺度としても使われる。

方法はともかく、文明度が進むということはより多くのエネルギーを手にするということになり、いつか手にするエネルギーは人類の必要とする量を超えるかもしれない。

必要以上のエネルギーを手にした人類は、破壊に使って自らを滅ぼすか、争いをする必要がなくなり、引きこもるかどちらか一方かもしれないと思った。

20年を経た今でも、そうかもしれないとは思う。

残念ながら、人類は未だに十分なエネルギーを手にしていないし、争いもなくなってはいないが。

今読むと、さすがに少し古く感じる。この20年で情報系のデバイスが大きく進歩したせいだ。

現代的にリライトするなら、物語の舞台は、仮想世界になるのかもしれない。でも、個人的には仮想世界ではないこの物語世界の方が好ましく感じるが。

 

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